会長就任挨拶
   
 2018年11月10日開催の平成31年度京機会総会にて会長を拝命しました。皆様方のご支援を受けて、私なりに精一杯努めさせていただきます。
 折りしも、機械系教室創立100年を経て、第2世紀の始まりを機に活性化した新京機会が誕生して21年目に入ります。私は、ちょうど新京機会が発足し年会費制度へ移行する際の会計を担当しました。如何にして新システムを会員の皆様にご理解いただき、メリットを感じていただけるかを、初代会長の大矢根先生をはじめ、関係する教員やサポートいただけるOBの方々と話し合ったのを記憶しています。その後、運営組織の構築、支部の創設、第2世紀事業との連携、若手の参画促進、学生への支援、等の様々な取り組みを経て、今や学科の同窓会として日本一ともいえる事業を展開しています。この間にご尽力いただいた多くの方々に敬意を表するとともに、最初に関わらせていただいた者として、たいへん嬉しく思っています。機械系の広報レターとして重要な意味を持つ京機短信も、久保先生と吉田さんの多大なるお骨折りでNo.320を数えるに至り、まさに感謝しかありません。
 しかし、当然の事ながら社会の動きにも対応する必要があります。最近は、我が国の基幹産業である自動車の世界にも電動化の波が押し寄せ、材料・生産加工・制御技術の高度化とAI技術や情報・通信分野の画期的な進展が歩調を合わせて進行しています。そこに、物・サービス・場所などを多くの人と共有・交換して利用する、いわゆるシェアリングエコノミーと呼ばれる社会的な仕組みが加わって、100年に一度とも言われる大変革を迎えています。この動きが、世界各国の政府や経済界・産業界の思惑と相俟って、グローバルに拡大していることは周知の通りです。
 機械工学は言うまでもなくモノづくりの学問ですが、システムが異分野と融合して複合化・多元化する中で、設計の手法や考え方も、必要とされる知識も大きく変貌せざるを得ません。異分野の知識・情報を取り入れた新規な発想が求められ、これまで以上にコトづくりのセンスが要求されるとともに、様々なネットワークの重要性が益々高まっています。京機会は、120年を超える長い歴史を持ち、1万人を超える卒業生・修了生を輩出した機械系教室の同窓会として、膨大な人的ネットワークを有しています。現代の社会変革の荒波の中で、同門の朋との広範かつ活発な交流を通じて、同窓会の役割を発揮できると考えています。

 以上の状況を踏まえて、今後も京機会が同窓会としてサステナブルに発展していくためには、今、何をすべきかを検討することも大切でしょう。とくに、若い人にメリットを感じてもらい、活躍の場を提供することが、次世代に繋がることは言うまでもありません。今後とも、皆さんのお知恵とご支援・ご協力をいただきたく存じます。

 ところで、最近、ビジネス書大賞2017を受賞したサピエンス全史を読みました。20万年前に東アフリカで進化したホモ・サピエンスは、7万年前の認知革命により膨大な量の情報を収集・保存・伝達する能力を獲得し、虚構のヒエラルキーを信じることで、国家単位での社会を構築できたとされます。その結果、新しい土地へ移動するたびにサピエンス以外の全ての先住人を破滅させ、生態系そのものを変えて、ほとんどの動物を絶滅させたとのことです。身体能力で優越するネアンデルタール人や、はるかに大きなサイズの動物も例外ではありませんでした。今は生物多様性が謳われていますが、これまでの業の深さに戦くとともに、多くの犠牲の上に繁栄があることを忘れてはなりません。

 直接的なコミュニケーションでまとまる集団の自然な大きさの上限は約150人と言われ、それを超える人数では親密にお互いを知ることは出来ないとされています。絶滅したネアンデルタール人も、かなり高度な言語技能を有し、安定した集団を形成していたようですが、それ以上に大きな社会を形成できませんでした。サピエンスとの決定的な違いは、虚構の言葉・概念・思想・宗教を信じ合える能力の有無です。同じ京機会に所属している同窓と判れば、全く初対面の人でも突然親しみが沸き、協力できる雰囲気が醸成されます。これが、まさに同窓会という虚構の力です。虚構というと、何か騙しているようで聞こえが悪いので、長い時間を掛けて築き上げてきた信頼の力であり、連帯意識の源です。この力を強化して、京機会の会員同士の絆をさらに深めることが、サステナブルに近づく一つの方法のようにも思えます。

 来年には30年余り続いた平成が終わります。新しい元号のもと、新たな気分で京機会活動を盛り立て、微力ながら活性化のためにお役に立てるよう努めてまいる所存です。皆さんのご支援・ご協力を重ねてお願いします。

 2018年12月5日
                                            塩路 昌宏(1975年卒)
 

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