LNG船の建造について
平成6年修士卒、大阪ガス(株)技術部・原料部 幡中 宣夫
 超低温可燃性ガス(-160℃)であるLNGをオマーンから日本に年間66万トン( 25年間)輸送するLNG船(船名 LNG JAMAL:全タンク容量135000m3)を三菱重工にて建造した。 このような船の建造には以下のことが要求される

1.
信頼性・安全性→長期間耐用のため、非常に実績を重視した設計
2.
経済性→大型化、高速化(19.5knot,片道2週間)、気化したガス(BOG)の処理
3.
不稼働損失対策→2.5年に一度だけのメンテナンス

 一般にLNG船には、球状のタンクを船上に持つモス型、矩形状のタンクを持つSPB型、船体自体をタンクとする(→船体で液荷重を支える)メンブレン型がある。LNG JAMALは球状タンクを5個持つモス型であり、設計には以下を考慮した。

1.
タンクの強度
超低温のガスを保持するタンクの熱収縮解析
漏れ発見後15日間(近基地への到達時間)亀裂進展しない設計
2.
船の揺れに対する固定法
北大西洋の波浪統計データに基づく解析
タンク内の燃料(→貨物)のスロッシング解析
船体との相互干渉

 なお、このLNG JAMALには、以下の先進的な技術を取り入れた。

1.
Integrated Bridge System→360°視界、航海情報の集約コンソールをもつブリッジ
2.
疲労監視システム→船体の特定の部位に歪みゲージを張り付け、応力データを蓄積。これにより船体やタンクの疲労設計を検証し、LNG船寿命の評価にフィードバックする。
3.
New Structual Transmission(→Transition) Joint
アルミ製の球状のタンクを保持する部材に熱絶縁を施すためアルミとステンレスの接合が必要である。従来、爆着法を用いて接合していたが、ある企業の独占状態であり、コストを引き下げるために高周波加熱と真空圧延により接合する方法を用いた。ただし、信頼性を確保するためにタンク5個のうち2個に使用。(→今回は試採用であるため、タンク5個のうち2個に部分採用)
4.
ロングパネル方式タンク防熱
細長い断熱材(ポリウレタン)を上部は接着、下部は枠止め。(→積み上げていく。北半球は断熱材の自重でタンクに載っているのみで、南半球はバンドで吊る。タンクに直接固定しない)
5.
レーダー式液面計(SUBでフロート式)(delete)
従来は静電容量式。低いイニシャル・メンテナンスコストが特徴。1つのタンクに試採用。
6.
次世代LNG船推進システム
従来、LNG船は、荷であるLNGの気化したガス(BOG)を燃料としてボイラで燃焼し蒸気タービンで推進している。

 これを値段の安いOilを燃料としたディーゼルエンジンや蒸気タービンによって運行すれば、輸送費を低減できる。LNG JAMALでは、信頼性を確保するために、通常はOilで 運行し、緊急の際にはBOGで運行も可能な蒸気タービンで推進するシステムを持つ。これにより燃料に使用されていた気化ガスを、最液化装置で液化し、ガス化率(BOR)を0.14%/dayにできた。
 (→このBOGを燃焼処理するためにディーゼルエンジンより効率で劣る蒸気タービンが採用されている。JAMALでは、基本的にBOGは全て再液化装置で液化処理するが、世界初で実績がないため、蒸気タービンを推進機関としBOG処理の冗長性を確保している。JAMALで再液化装置の信頼性が証明されれば、将来、高効率のディーゼルエンジン等をLNG船の推進機関とすることができる。)

【閉じる】