社会資本の劣化と橋梁メンテナンス
S44卒、京橋工業株式会社・橋梁メンテナンス業 並木 宏徳
 1987年にロンドン地下鉄に乗った際、架線工事のため駅が締め切られていた。
これは、昼間の工事の方がコスト安のためと思われる。また、パリの高速地下鉄に乗った時には、車両ドアが故障で開いたまま、運転されていた。さらにニューヨークでは下水管の破裂(時として破裂していなくても)により、道路が至るところで閉鎖されており日本の事情とはかなり異なることを痛感した。海外では保守コストを下げるために、利用者に若干の不便をかけても良いという思想があるためで、日本のように、このような状況にないとコストが高くつく。
 日本の建設投資を国際比較すると、総額ではアメリカ、日本、ドイツであり、一人あたりの建設投資額では日本が他国の倍以上と最も多い。また、建設業者数もアメリカと同程度であり、非常に多い。建設投資は90年度までの5年間に急激に増加し、バブル崩壊とともに民間投資が転じた後も政府投資によって92年度まで増加した。97年度以降は大きく低下し、対GDP比率は現在14.3%であるが、今後
 10%付近まで低下すると思う。建設投資では民間では建築分野が多いが、政府投資の大半は土木投資である。建設費に対する維持修繕工事比率をみると、90年度で約13.6%であったが、98年度では17.5%になり、年々増加傾向にある。21世紀はコスト低減のために、例えば、ロンドンでの駅の封鎖が発生するであろう。
 ダービー一世のコークス法による製鉄成功により、鉄の量産化が始まり、1883年のブルックリン橋のころから鉄橋が増加した。1910年から1940年がイギリス、アメリカの橋梁のピークであり、日本は1950年から急激に増加、1955−1965で10倍となり、以後はほぼ50万トン程度の水準で推移して来た。
 橋梁は30年で手入れ(ペンキ塗り)が必要となり、50年で手入れが絶対必要な状態になる。70年たつとぼろぼろになり、100年で完全に使用不可の状態になる。古い機械は必ずリニューアルされるが、鉄橋は古いものが非常に多い。
 アメリカでは、1970年から老朽化が始まり、約半分の鉄橋がだめになり、年間150〜200の橋が落橋している。(例えば、シルバーブリッジはピントラスの腐食疲労で落ちた)アメリカの別の一面として、建造された時の計画や記録が残っており、関係者の名前が記述されていることや、危険に対し近くの住民や利用者が管理するなど日本と異なる維持管理がなされている。
 最近では、橋梁のマネージメントシステムなど補修費、余寿命や延命期間を予測する手法がでてきている。また、高張力鋼を用いた補強工法など京橋工業で研究中である。(この後、各企業の資本金、利益率、株主資本比率などについて笑いを交えたお話がありました)

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